寒くなりましたね。道に降り積もったフカフカとした落ち葉の上を歩くと、足元からも秋から冬へ向かう空気を感じます。そして師走と聞けば、師が走る(漢字は当て字で、語源は僧が走るなど諸説あるそうです)という字から忙しそうな雰囲気も感じます。一年の締めくくり、実際にも何かと忙しい時期ですね。
雨の雫。11月23日の朝。
さて、先日11月23日の師のジャヤンティーの日は、朝から愛おしい雨が降り続き、静かな歓びがゆっくりと世界を満たしてゆくような、そんな一日でした。私はヨーガ・ヴィハーラ会場から参加しましたが、そこで淡々と力強い祝辞を奉納された一人の先輩について今日は書かせていただきたいと思います。先輩は長年ヨーガの道を歩まれてきましたが、先輩自身のヨーガへの思いを聞く機会は少なかったので特に私には祝辞が印象的でした。先輩は、まさに師走の字のような(?)いつも忙しく走り回っておられるような人で、困っている人の所へ無心で駆けつける人というイメージを私は持ってきました。
朴訥とした先輩は、誰に対しても分け隔てなくあたたかく、最初の頃よく遠慮したり緊張していた私でも、先輩には自然と心を許していました。ずいぶん昔に先輩から「遠慮をし過ぎると周りの人が気を遣うから厚かましすぎる方がいいよ」と言われました。その場におられたアメリカのヨーガ仲間からも「Don’t be shy」と言われました。さすがに二人の仲間から言われたので、真剣に受け止めました。後で気付いたのは、私が先輩に対して心を開けたのは、先輩の言葉をお借りするなら多分先輩がある意味厚かましいから(笑)でした。気を遣わないよう自然に気さくに接してくださっていたのです。厚かましいと相手によっては嫌がられることもあるかもしれませんが、でも少なくとも相手が自分に気を遣うことは減ります。先輩は自分を犠牲にしていることに気付きました。
ヴィハーラへ向かう道。
また、ある時に調理用計量器を頂きましたが、一緒に電池も余分に頂きました。照れ隠しなのか、先輩曰く「人に物を贈る時にはすぐ使えるようにここまで考えなあかん(笑)」。ちょっとしたことですが具体的なことを聞けたことが嬉しく、今もその計量器を使うたび思い出し、自分もそうしよう~と思っています。
毎年ジャヤンティーの頃になると、役割のために先輩のお家にお邪魔することがありました。でも先輩は不在であったり、パタパタ!と帰宅されたかと思うと、もう行くわ!と風のような速さで出ていかれたり、とにかく出たり入ったりされていました。そんな忙しさにもかかわらず、ジャヤンティー当日の朝に役割のある私たちへ、お昼を食べる間がないだろうからと、たくさんのおむすびを結んでくださっていたことがありました。まるで日本昔話に出てきそうなツヤツヤと光った真っ白なご飯の大きなおむすびでした。一種は梅干し、もう一種はお醤油で味付けされたかつお節が入っている素朴なもの。お料理はシンプルなものほど難しいと感じていますが、それは至高のおむすび、とでもネーミングできそうなほど本当に美味しいものでした。真心を感じながら、みんなでほおばりました。「味付けにはその人のエゴが出る」と師が仰っていたと聞いたことがありますが、お料理はその人自身をよく表しているんだなぁと感じます。
前置きが長くなりましたが、そんな先輩の祝辞は、そのおむすびのようにシンプルで、そして心に響いてくるものでした。
いつも自分に出来ることはなんだろう?と考えて、その出来ることを実際に行なっていく、これからもそうしていくという内容でした。先輩は普段から気さくに私たちに声を掛けられますが、なんとそれを道で出会った知らない人にもそうしているとのこと(!)特に子供やお年寄りには声を掛けた方がよさそうだと感じた時には話しかけるようにしていると。本当に驚きました。平等、分け隔てなく、ということは、こういうことだと思いました。
今の世の中そういうことをすれば何かあった時に、余計なことに巻き込まれたり疑われたりするんじゃないかと私は思っていました。私は気付かないうちに世間の目を気にして何にも出来なくなっていたんじゃないかとハッとしました。先輩は、世間の目を気にされるのではなく、ピュアな真実の目でこの世の中を生きておられました。
バスの車内で先輩が、ふとお年寄りに話しかけた時、その方は人と話したのがとても久しぶりだ、と突然泣き出されたそうです。どんなにその方は嬉しかっただろう、と思います。いつも他者のことを気にかけ自分には何ができるだろう?とそれだけに集中されている先輩。そりゃあ忙しくならざるを得ないと思いました。
ヨーガは誰もができるもの。「真理とは難しいものではなく、小学生にも分かるようなもので、またそうでなければそれはおかしいからね」と師からお聞きした言葉が、先輩を見ているとぜんぶ分かる気がします。弟子の行為や生き方を見ることによって、師がどのような方なのかが分かることがあると思います。
今回、祝辞をされた仲間たちの言葉を聞いて、ヨーガの仲間の言葉は、師からの言葉そのものだと思いました!
師が描かれたヴィハーラの扉。
野口美香