蟻塚(ありづか)ってご存じですか?
蟻が地中に巣を作るとき、運び出した土や砂が盛り上げられてできる柱状、円錐状の山、また落ち葉や枯れ木で作られる蟻の巣だそうです。私は見たことがないのですが、インドの伝説には、蟻の巣が身体を覆ってしまうぐらい長い間瞑想に没入するヨーガ行者がでてきます。蟻が巣を作っても気が付かないなんて、どれほどの集中なんでしょう。すごいですよね。
今日はそんな蟻塚もでてくる一つの教えをご紹介したいと思います。
————————————————————————————————————————————-ナーダラという偉大な賢者がいました。彼はいたるところ旅をしました。そこで、ヨーガを実践している二人の男に出会いました。
一人目の男は、白蟻が巨大な蟻塚で周りを囲んでしまうほど長いこと座り続け、瞑想をしていました。彼はナーダラに聞きます。
「あなたはどこにいらっしゃるのですか」
「私は天国に行くところです」
「では、彼はいつ私にお慈悲をくださるのか、いつ私はヨーガを成就するのか、神様にうかがってみてください」
二人目の男は、飛び回って歌ったり踊ったりしています。彼は粗野な声と身振りでナーダラに聞きます。
「あなたはどこにいらっしゃるのですか」
「私は天国に行くところです」
「では、わたしがいつヨーガを成就するのか、たずねて下さい」
やがて……
ナーダラはまたあの蟻塚に囲まれて瞑想をしている男の前を通りかかりました。
「おおナーダラ様、あなたは主にうかがって下さいましたか」
「ええ、うかがいました。主は私に、彼はあと四回の誕生のうちにヨーガを成就する、とおっしゃった」
その男は泣き出して、こう叫びました。
「私は蟻塚に囲まれるまで瞑想をしました。それでもまだ四回も生まれなければならないとは」
ナーダラはもう一人の男にところに行きました。
「私のことを尋ねてくださいましたか」
「ええ、お尋ねしました。ここにタマリンドの木があるでしょう。実は、まだこの木の葉の数だけ生まれなければならない。それからヨーガを成就することができるそうです」
男は喜びに踊りはじめました。
「そんなに早く、自由になれるとは」
その時、声が聞こえました。
「我が子よ、おまえは今、自由になれるぞ」
無限時間を待ち続ける男の忍耐、その覚悟が最高の結果をもたらしたのです。
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この話を読んで、私は二人の違いは何なのかを考えました。蟻塚ができるほど瞑想していた男は、誰の目から見ても真剣にヨーガを実践しているように見えます。かたや踊り狂い歌っている男が、真剣にヨーガを実践しているようには見えません。その人がどのような思いで一途にヨーガの成就を求めているのか、端からは全く分からないことのなのだと思いました。でももしかしたら自分自身ですら分からないことなのかもしれません。自分はヨーガを真剣に実践している、そのような思いも邪魔になるのだと思いました。
師は説かれます。
行為の結果に一喜一憂せず、結果を受け取らないようにしなさい。
蟻塚に囲まれていた男は結果を期待していたのでしょう。踊り狂っていた男のように、私たちはただ一心に結果を気にせず、ヨーガを深めていくだけなのだと思いました。そしてヨーガへの思いが真剣であれば、必ずその思いは神様に通じるのだと思いました。
ダルミニー