今日のオシゴト

今朝、なんとなく早めに職場へ行ったら、ユキオさんという患者さんの意識が早朝からなくなり、脈拍も落ちてきていると聞きました。それは、もう間もなく彼がこの世を去ろうとしているということです。3日前には元気はなかったけど、お話してたんです。私は今日彼の担当でしたから、すぐに色々と準備を始めました。家族の意向で、延命は行わず看取りと決まっていましたが、それでも、ただ見ていればいいというわけではありません。看護師には、いつもなかなかたくさんの仕事があります。死に逝く人がどんなに美しくても、ただずっと付き添ってうっとりと見ているわけにはいかないんです。家族に連絡したり、主治医を呼んだり、エンゼルケアの準備したり、書類を整えたり…。他に見ないといけない患者さんもたくさんいる。それに、主治医や家族への連絡のタイミングを計るのも結構難しいんですよね。呼吸が止まったからそれ電話だ!と思って主治医に連絡しても、ずーっと心電図の波形がフラットにならなくて、あまりにその時間が長くなると医師との間に気まずい雰囲気が流れていくんですよね…。また、家族がどういうタイミングで連絡してほしいかという家族の意向も、それまでのやり取りの中で読んでおかなくてはいけない。

うちの病院に入院している患者さんの家族は、震災前はほとんどが近くに住んでいました。でも、震災が起こって県外に避難して、家族が誰も近くにいないことも多いんです。家族の到着が間に合わず、先に心臓が止まっていても、家族が来てから立ち合いのもとに医師が死亡確認するんですけど、家族が到着するまでの時間があまりに長いと、死後硬直といって死後2~3時間で筋肉が固まり始めるので、電話で家族にお断りして先に死亡確認し、体を拭いたり着替えたりといったエンゼルケアを行ってから家族を待つことも多くなりました。

ユキオさんのご家族はかなり遠くにおられるので、到着されたのはお昼すぎでした。家族が来られるまで、なんとなく気になって何度も足を運びました。ユキオさんの心電図の波形がフラットになる瞬間、たまたま私は病室に一人で彼を見ていたんですけど、ゼロになると同時にそれまでパッと見開いて一点凝視していた目がスーッと閉じたんですね。同時に開いていた口もわずかの隙間を残したまま閉じていきました。あまりにもその閉じ方が自然で何のよどみもなくて、一瞬神秘的な世界に引き込まれました。

ユキオさんは生前はとても頑固なおじいさんで、少し認知症が入っていましたが、いつも同室者の奥さんの心配をしていました。もちろん基本的には男女同室はないのですが、このご夫婦の場合は奥さんの認知症がかなり進行しているのと、ユキオさんがとても心配性だということで、奥さんと同室にしました。でも、奥さんはユキオさんのことが誰かを、もう分かってなかったんですね。自分の夫は家にいるんだといつも言ってました。「この人は誰?」とユキオさんのことを聞いても「知らない」という返事。「ご主人、体悪いんですよ」と言っても、「あら~、そうなの~」と他人事。でも、ユキオさんは自分がいなくなったら妻はどうなるのかといつも気がかりで、今妻はどこへ行った?と常に心配していたんです。ユキオさんの呼吸が止まりそうになった時、奥さんは隣で朝ごはんを食べ、食べ終わるとさっさと背中丸出しで寝ていました…。ユキオさんが亡くなった後、死後の処置をしてくれた看護師が、奥さんをベッドサイドに連れて来て、ユキオさんの冷たくなった手を握らせました。そのせいなのか、それからしばらく奥さんの元気がなかった…ような気がしたんですけどね。気が付いたら、廊下に置いてある私たちがつけるマスク、片っ端からポケットに入れてました…。女性って、やっぱり強い…。どうしたのかと尋ねると、「だって、退屈だから」とのこと。

あれ、あれを思い出しました。あの絵ね。再び登場です。でも、カーリーの強さも、シヴァの寛大さと愛があればこそ。ユキオさん、お疲れ様でした。いってらっしゃい!

カーリー

 ユクティー


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